CASSHERN

つまらない映画として噂になっている「CASSHERN/キャシャーン」を観ました。感想は、『こんなのキャシャーンじゃない。こういう映画を出したかったのなら名前変えて「CAASHERN/カッシャーン」という別の映画としてだすべき』でした。アクションと美術に40点、ストーリーに60点配分の100点満点の得点をつけるとして、「CASSHERN/キャシャーン」としては5点(アクションと美術でプラス35点、ストーリーでマイナス30点)、「CAASHERN/カッシャーン」としては40点(アクションと美術でプラス35点、ストーリーでプラス5点)、という感じです。まぁ、結局キャシャーンとしても、カッシャーンとしても低い評価となりますが、人によってはカッシャーンとして観ていたら100点という人もいたかもしれません。

以下ネタばれはないと思いますが、心配な人は読まないようにしてください。

残念なのは、これをみて昔のキャシャーンを観てみたいと思う人はいないだろうなぁ、と感じたこと。原作付きの映画って、原作を知っていて見た人の評価は厳しいものになりがちなので難しいのですが、そうでなければ映画自体がちょっとでも面白い場合は、原作にも興味を持つ人がでてくるものです。昔、「バンパイアハンターD」とか「Five Star Stories」を映画で初めて知りましたが、面白かったので原作にも興味を持って読んだことがあります。もっというと映画はいまいちでも何か惹かれる部分があれば、原作ではどんな感じなのか、と興味をもつはずです。ところが、「カッシャーン」は原作があると聞いても興味は持てません。ストーリー的にあのシーンだけはもう一度観てもいいかな、というのが無いからです。(ストーリーモードのない格闘対戦ゲームとして販売されたらやってみたいなぁと思うかもしれません。アクションシーンはかっこよかったからです。)

「原作付きの映画に必要なのは何か?」というのを考えたときに、「カッシャーン」は必要条件を満たしていないことに一番の問題がありそうです。どんな必要条件を満たしていないかというと、「キャシャーン」といったら「これ」、という有名なインパクトのあるフレーズがあるのですが、それが共有されていないのです。それは、「たった一つの命を捨てて、生まれ変わった不死身の体、鉄の悪魔をたたいて砕く、キャシャーンがやらねば誰がやる」というフレーズです。どうでしょう、何となく興味を持つ人もでてくるのではないでしょうか。自分はキャシャーンの話の内容は全然覚えていませんが、すくなくとも「生まれ変わった不死身の体」「キャシャーンがやらねば誰がやる」というフレーズを子どもの時に聞いて、ずっと覚えていたため、リメイクされたこの映画を観ようと思いました。このフレーズはインパクトがあるのです。このフレーズを共有されていないものは「キャシャーン」ではないという意見に同意してくれる原作ファンは多いと思います。それ故に、映画は「CAASHERN/カッシャーン」としか呼ぶことはできないのです。

共有するものがないので、映画「CAASHERN/カッシャーン」はキャシャーンを使わずとも同じような主張をするための作品が作れます。主人公はキャシャーンではなくてカッシャーンでも何の問題も起きないのです。なぜキャシャーンでなければならなかったのか? アクションシーンをこなせるというだけの理由でキャシャーンは採用されたのでしょうか? それなら、ストーリはもっと簡潔にしてアクションシーンだけをつなげるだけで良かったでしょうに、わけのわからないストーリをなぜつけたのでしょう。謎です。しかし、この点についてこれ以上考えても「なぜ」が増えるだけで減ることはありません。それこそ、映画を作った人達に聞くしかないのです。ここで、あえて共有できそうだというものをあげると、「CASSHERN/キャシャーン」も「CAASHERN/カッシャーン」もどちらも、「生命とは何か」、「善とは悪とは何か」というのを考えさせることをテーマとしている部分が見受けられる、という点です。キャシャーンでは、人工知能ロボット対人間という構図で中間的な存在として新造人間キャシャーンがいたのだったと記憶しています。似たようなテーマを内在するものとしては、「人造人間キカイダー」とか「仮面ライダー」とか「i Robot」とか「デビルマン(漫画の方)」とかがありますが、どれも別の作品として楽しめます。つまり、別にキャシャーンを持ち出さなくても、これをテーマとして内在させて楽しめる映画は作れると言うことです。そうすると、次のポイントは映画「CAASHERN/カッシャーン」の映画としての面白さはどうであったか? ということになりますから、それについて考えてみましょう。

カッシャーンを観ていて伝わってくるのは、「戦争反対」をテーマとしているらしいということでした。「戦争」から派生するさまざまな矛盾は、現実社会を考えたら確かにそういうことはありそうです。残念なのは、それを伝えるための表現が練られていないという点です。救いが無いという感じです。映像的には、アクションシーンとビジュアルは素晴らしいのですが、殺戮シーンとかの残虐な場面も多くてげんなりとしました。ドキュメンタリとかノンフィクションの映画なら別ですが、ジャンルとしてはSFなんだから、そういうのはもうちょっと考慮してもらいたいところです。普通だと心の準備ができてません。あとは、実際のシーンなのか、登場人物の頭の中でのイメージシーンなのか、判別しにくい表現も多かったです。なんというのか、その表現方法がばらばらであるため、全体としてみると統一感がなく、切り替わったということに気付くのに時間が掛かるのです。うまく説明ができていませんが、過去のシーンはモノトーン、イメージシーンはセピア、実際のシーンはカラー、とか簡単に区別できるようにする技法はいくらでもあるはずなのですが、そういう感じではなくてこんなビジュアル的表現もあります、こんな見せ方もあります、という感じで無意味に映像加工をしているような感じなのです。テーマが重いだけでも観ている側の負担が大きくて大変なのに、この切り替わりに時間がかかるためにさらに負担が大きくなってしまい、ものすごく疲れました。

極めつけは、映画の中でぺらぺらと押しつけがましい私的な意見を一方的に説明的に主張されて、「何でこいつは急にこんなことをいいだすんだ?」「結論だけいわれても説得力ないし説教くさいなぁ」と思うことが多かったことが印象に残っています。疲れている頭へ、こむずかしい言葉で説明されると、普通は「はいはいはい、君の主張はわかったから、早く次にいこう」という感じで真剣に聞くことができないものですが、そんな感じです。聞く価値があるメッセージなら、疲れていても真剣に聞くのですが、一方的に断定されるので、「つまらない」わけです。観ている側が自分なりに納得できる答を出す余裕も、選択肢の提示もないのです。Yes/Noという選択肢はでてくるのですが、どちらを答えてもゴールは同じなのです。商品広告でよくありますが、次々と質問に答えていくと、そんなあなたはこの商品をかうといいですよ、と結局同じ商品を勧められる、というのを、「愛」とか「生命」とかについてやらされているようなものです。悪いことにゴールは映画製作者の私的意見に誘導されて断言されるので、「おーい、なんだそれ」と感じてしまうわけです。

「救いがない」と前述しましたが、本当に主人公が救いのない方へいってしまうわけです。普通の人が共感しやすいように凡庸な人を主人公にするのはかまいませんが、成長しない主人公というのは観ていてつまらないのです。重いテーマを持ち出しているのですから、ちょっとは主人公を人間的に成長させてくれないと… 重いテーマに耐えられない人を主人公にしているというなら、そんな人は自分も含めてそこら辺にごろごろいるのだから、わざわざ映画の中でそんな主人公を観たいとは思わないものです。中途半端な感じなのです。

他には、冒頭から謎だらけの出来事が発生するのでサスペンスとしてはどうか、という観点の評価はありです。しかし、残念ながらこれも良くありません。謎解きをするためのヒントはばらまかれていますが、その重要性は最後の方で唐突にある人物から明かされるので、びっくり仰天状態です。話の途中でそれを解くためのヒントはないし、まとめる人もいないし、それに関わっている人も何も言わないので、全然つながってこないのに一番最後に勝ち誇ったように種明かしをされて、「あんなにヒントがあったのに、今まで気付かなかっただろう?」といわれてしまうのは、いかがなものかと。素人のテーブルトークRPGのシナリオにおいてさえ、そういう展開はつまらないからしないこと、といわれているのに… 劇場映画のシナリオでそういうことをするなんてありえません、と思ったのはここだけの秘密です。

最後に、観たばっかりなのに最後のシーンを思い出すことができません。ロボットをたたきわったカッシャーンの姿がかっこよかったのは残っています。自分だったら、アクションシーンだけきりだして間の説明は3行ぐらいの簡潔したものをいれて再編集をします。登場人物が持つ背景、心理は最低限の情報だけで十分で15から20分体度の面白い作品になりそうです。

こういった話を聞くと逆に「CAASHERN/カッシャーン」を観たいと思う人もいるかもしれません。予備知識を持った上で観ると意外と面白いかもしれません。自分も「つまらない」「残虐シーンが多いからお子さま向けではない」というぐらいの予備知識は持ったうえで観たので、激昂することはありませんでしたが、何も知らずにキャシャーンだと思ってカッシャーンを見に行っていたら、「金返せ」状態だったに違いありません。興味を持った方は、内容はつまらないけどアクションシーンだけは面白いらしい映画「CAASHERN/カッシャーン」だと思って観てください。

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CASSHERN」への2件のフィードバック

  1. ピンバック: Fantastic Metaphors!

  2. ピンバック: hiro345

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